映画『パターソン』詩を書く人による詩に興味がある人のための映画レビュー。

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詩・英詩

詩的な映画です。日々は似ているようで同じではない。毎日似たようなことが起きるけれど決して同じではない。そういったことに気がつかせてくれる一遍の詩のような映画です。

本記事は「詩を書く人による詩に興味がある人のための映画レビュー」をテーマとしています。

一般的な映画評は専門家にお任せし、こちらでは詩を書くことが趣味である筆者が映画『パターソン』に登場する詩人の日常や、詩を書くスタイル、登場する詩などに、焦点を当てて書いていきます。

きっと下記のような方にお役に立てると思います。

  • 詩に関する映画を探している
  • どのような詩人が描かれているのかを知りたい
  • 映画にはどんな詩が使用された?
この記事を書いた人「大人C」
  • 詩作をはじめて6年目
  • 現代詩手帖などに投稿し入選、佳作あり
  • 日本語教師のボランティア活動を通して日本語を勉強
  • 夢は世界を旅する詩人ブロガー

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映画『パターソン』について

Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

基本情報

原題:PATERSON
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏ほか
製作:2016年/アメリカ
上映時間:117分
詩:ロン・パジェットほか

あらすじ

ニュージャージー州パターソンに住む、バス運転手のパターソン。町と同じ名前を持つ彼はよく似た毎日を過ごしている。毎朝6時過ぎに目覚め、隣で眠る妻ローラにキスをする。一人で朝食をすまし、歩いて職場へ向かう。仕事を終えて家に帰る。帰宅後は妻と夕食をとり、愛犬マーヴィンと夜の散歩をして、バーに立ち寄ってビールを1杯だけ飲んで家に帰る。そして妻の横で眠る。そうして過ぎていく1日のなかで心に浮かぶ詩をノートに書きとめる。よく似た「毎日」ではあるけれど、決して同じではないパターソンの1週間の1日1日を、まるで1ページ1ページ詩集をめくっていくように描いた物語。

「詩人パターソン」の日常と詩のスタイルについて

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「詩人パターソン」の日常や詩のスタイル

詩人として生きていくのに理想的な生活と環境が備わって言えそうなパターソン。詩人なら誰もが羨ましがりそうなその日常について書いていきます。

パターソンの暮らしぶり

大都市でもなく、それでいてそれほど田舎でもない。どこにでもありそうな街で暮らすパターソン。職業はバスの運転手。仕事に不平や不満があるわけでもなく昇進や野心とは無縁。おそらく一生同じ仕事を続けていくし、それで十分満足しています。妻は3~4万円するギターを買うのに躊躇する至って普通の生活レベル。夫婦ともに今以上の贅沢は必要なく、ただお互い創作できる環境さえあればそれで満足という暮らしぶりです。

パターソンにとって「詩」とは?

パターソンは「詩を書くことができる」というそれだけで喜びを見出せるタイプの詩人です。だから自作を世に出すということに興味がありません。どこかに投稿しようとか自作の詩を評価してほしいとか、そのような創作に関わる苦しみや葛藤はありません。

もしかすると妻が自作を絶賛してくれるからということが理由かもしれません。パターソンの妻はことあるごとにパターソンの書いた詩を称えてくれるのです。ただ妻は詩を絶賛してくれるのだけど、本人はあまり積極的に妻に対し詩を読んだり朗読をするといったことはしません。愛する妻が詩作のモチーフとなることはあるけれど、妻に対して読みあげるということはしないのです。ただ思いついたときに詩作をし、ノートにかきとめる。詩の良し悪しなどの悩みとは無縁に詩作にふけることが出来る詩人がパターソンです。

詩の仲間

詩を書く人との出会いの場面がいくつか描かれています。これはなかなか羨ましいことです。アメリカではどうか分かりませんが、日本では日々の暮らしのなかで詩を書く人との出会いはそうそうあるものではありません。「パターソン」という土地だからという演出かもしれませんし、詩を書く人との出会いを呼び寄せているとも言えるかもしれません。決して社交性がある人物として描かれてはいませんが、詩を書く人を見つけると自分から積極的に声をかけるという面が描かれます。自分と同じように詩作をする人間を見つけるとどこか嬉しそうにしているパターソンが印象的です。

▶詩の投稿仲間が本記事から見つかるかもしれません。
詩の投稿ってどこにするの?詩の投稿欄おすすめ6選!

ルーティーン

「歩く」という行為を映すシーンが多いのが特徴です。職場までの通退勤は徒歩、夜は犬の散歩、考えごとも散歩をしながら行います。このあたりは詩を書く者なら共感できる方も多いかもしれません。筆者自身としては深く共感する部分があり、詩やブログを書く前には必ず散歩をしています。そうするとアイデアが浮かぶことが多いと感じているからです。パターソン自身も散歩中に頭のなかで何度も何度も詩の一節を反芻し、詩を仕上げていきます。

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詩のスタイル

パターソンは普段の生活の中からモチーフを見つけ出すタイプです。それは例えば家にあるマッチ箱だったり、子供の頃に聞いた歌であったり、純粋に妻を称えた詩であったりします。難解な言い回しをせず日常の中で感じたことをそのまま詩にしていきます。

この映画を観ますと「詩は日常のどこからでも発想を得ることができるし、書くことができる」そんな当たり前で単純なことに気づかせてくれます。

詩を書く者としてそれ以上に望むことがあるだろうか、と自問せずにはいられません。

詩人の道具

今の時代、詩を書いたり、詩のアイデアを思いついたとき、大多数の詩人はスマホやパソコンを使用するのではないでしょうか。しかしパターソンはスマホを持つことは束縛されるようだと嫌っており、詩作はもっぱら紙とペンを用いて行っています。それは自宅に戻ってからも同じ、地下にある自室でも、ノートをひろげ、そこに一字一字、手書きで詩を書いているシーンが出てきます。

筆者も散歩で詩のアイデアが思いついたときはスマホを取り出しメモ帳アプリを使用しますが、スマホの文字入力ではアイデアをアウトプットするのに時間がかかり過ぎる、と感じていることが多々あります。書いてる途中にアイデアに逃げられてしまうのです。これを機にメモ帳を持った散歩、というものを試すのも面白いかもしれないと感じました。

劇中で使用される詩や詩人について

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劇中で詩が引用されている詩人

劇中で主人公のパターソンはいくつかの詩を書きます。それらは実際には「Ron Padgett」という詩人によって書かれた詩です。

また妻もお気に入りだという「William Carlos Williams」の詩の朗読シーンもあります。筆者も本映画を通してすっかりファンになってしまいました。この2名について紹介していきます。

  • 名前:ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ
  • 年齢:1883年 – 1963年(79歳没)
  • アメリカ合衆国の詩人
  • アメリカの現代口語を大胆に取り入れた詩で、第二次世界大戦後のビートニクやブラック・マウンテン派の詩人たちに影響を与えた。
  • エズラ・パウンド、T.S.エリオットに比肩する、20世紀アメリカを代表する詩人
  • アメリカの現代口語を大胆に取り入れた詩で、第二次世界大戦後のビートニクやブラック・マウンテン派の詩人たちに影響を与えた。
  • 名前:ロン・パジェット
  • 年齢:1942年 –
  • アメリカ合衆国の詩人
  • エッセイスト、フィクションライター、翻訳者、ニューヨークスクールのメンバー

参考記事:【英語の詩】英語学習に使える短い英語の詩を紹介。『Ron Padgett』

劇中に使用される詩

劇中ではいくつかの詩編が登場しますが筆者が特に気に入ったものを今回紹介したいと思います。(※ 翻訳は劇中の字幕をそのまま転用させて頂いています)

This Is Just To Say – by William Carlos Williams
I have eaten
the plums
that were in
the icebox

and which
you were probably
saving
for breakfast
Forgive me
they were delicious
so sweet
and so cold

言っておくよ

冷蔵庫のスモモを食べた
たぶん君の朝食用だね
許してくれ
おいしかった
甘くて
よく冷えてたよ
Love Poem – by Ron Padgett
We have plenty of matches in our house.
We keep them on hand always.
Currently our favorite brand is Ohio Blue Tip,
though we used to prefer Diamond brand.
That was before we discovered Ohio Blue Tip matches.
They are excellently packaged, sturdy
little boxes with dark and light blue and white labels
with words lettered in the shape of a megaphone,
as if to say even louder to the world,
“Here is the most beautiful match in the world,
its one and a half inch soft pine stem capped
by a grainy dark purple head, so sober and furious
and stubbornly ready to burst into flame,
lighting, perhaps, the cigarette of the woman you love,
for the first time, and it was never really the same
after that. All this will we give you.”
That is what you gave me, I
became the cigarette and you the match, or I
the match and you the cigarette, blazing
with kisses that smolder toward heaven.

愛の詩

我が家にはたくさんのマッチがある
常に手元に置いている
目下、お気に入りの銘柄は
オハイオ印のブルーチップ
でも以前は
ダイヤモンド印だった
それは見つける前のことだ
オハイオ印のブルーチップを
そのすばらしいパッケージ
頑丈な作りの小さな箱
ブルーの濃淡と白のラベル
言葉がメガホン型に
置かれている
まるで世に向かって
叫んでいるようだ
「これぞ世界で最も美しいマッチだ
4センチ弱の柔らかなマツ材の軸に
ざらざらした濃い青紫の頭薬
厳粛にすさまじくも断固たる構え
炎と燃えるために
おそらく愛する女性の煙草に
初めて火を付けたなら何かが変わる
そんなすべてを与えよう」
君は僕にくれた
僕は煙草になり君はマッチになった
あるいは
僕がマッチで君は煙草
キスに燃え上がり
天国に向かってくすぶる
Pumpkin – by Ron Padgett
My little pumpkin,
I like to think about other girls sometimes,
but the truth is
if you ever left me
I’d tear my heart out
and never put it back.
There’ll never be anyone like you.
How embarrassing.

僕のかわいい君

僕もたまにはほかの
女性のことを考えてみたい
でも
正直に言うと
もし君が
僕のもとを去ったら
僕はこの心を
ずたずたに裂いて
二度と元に戻さないだろう
君のような人は
ほかにいない
恥ずかしいけど
The line – by Ron Padgett
There’s an old song
my grandfather used to sing
that has the question,
“Or would you rather be a fish?”
In the same song
is the same question
but with a mule and a pig,
but the one I hear sometimes
in my head is the fish one.
Just that one line.
Would you rather be a fish?
As if the rest of the song
didn’t have to be there.

その一行

古い歌がある
僕の祖父がよく歌っていた
歌詞は尋ねる
”君は魚になりたいかい?”
その同じ歌は
同じ質問を繰り返す
ただしロバやブタで
だが時々 僕の頭の中に
響くのは
魚の歌詞
ただ ただその一行だけだ
”君は魚になりたいかい?”
まるで
それ以外の歌詞は
必要ないかのように

どれも読みやすく、日常のありふれた場面が描かれています。特に最後の「その一行」がお気に入ってます。

モチーフとなっているのは子供の頃に聞いた歌。歌詞の一部分が強く思い出に残っている。ただそれだけの詩です。でも最終部で「それ以外の歌詞は必要ないかのように」この一行があるだけで全く印象が変わってきます。「ある歌詞の一部分だけが心に強く残る」というその不思議さ、説明の出来なさ、あるいは不気味さ。日常は、こんな不思議な単純さで溢れていると感じます。

▶海外の詩人たちによるスピーチがTEDという海外の番組にあるので紹介します。
詩人は何を語るのか?海外の詩人を知ろう!おすすめスピーチ3選!

まとめ『見つめずにはいられない人』

Photo by MARY CYBULSKI (C)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

本編の後半に印象的な台詞が出てきます。

「翻訳なんてレインコートを着てシャワーを浴びるようなもの」

「翻訳」は「映画」や「言葉」と言い換えても良いのだと思います。人と人、人と事物の間に在るもの。その不思議さを見つめるのが好きな人、見つめずにはいられない人、そんな人たちに向けられた映画です。

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